アメリカ人事 | 関税不況時代にレイオフは処方箋か?~Saks Globalが約450名レイオフ~

 

アメリカ人事 | 関税不況時代にレイオフは処方箋か?~Saks Globalが約450名レイオフ~

― Saks Globalの事例から考える、雇用を守る経営戦略

2025年4月、Saks Globalがテネシー州にある物流センターを閉鎖し、約450名をレイオフすると報じられた。このニュースは、単なる一企業の構造改革ではなく、アメリカの百貨店業界全体が直面している経営課題を象徴する出来事として注目に値する。

背景にあるのは、トランプ政権下で再導入された中国からの輸入品に対する関税(タリフ)である。Moody’sの分析によれば、こうした関税措置は百貨店業界の税引前利益(EBIT)を10%押し下げる見通しだとされており、特にSaksやKohl’sといった中価格帯から高価格帯を扱う企業が影響を受けやすいとされている。

しかし、ここで問いたいのは、「レイオフは本当に最善の対策なのか?」という点である。

短期的コスト削減と引き換えに失うもの

確かにレイオフは即時的なコスト削減策であり、財務的な応急処置としては一定の効果を持つ。しかしSaksのようにラグジュアリーブランドとしての顧客体験を重視する企業にとって、従業員は単なる労働力ではない。彼らはブランドの顔であり、接客やスタイリングを通じて顧客と感情的な関係を築く存在である。彼らを一斉に削減することは、ブランドへの信頼喪失やサービスの質の低下を招き、結果的に売上減少につながるリスクがある。

雇用を守る3つの代替案

レイオフ以外にも、企業が取るべき選択肢は存在する。以下にその一部を示す。

1.ベンダーとの協調的再交渉

報道によれば、Saksは支払いの遅延や強引な条件変更によってサプライヤーの信頼を失っている。これに代わり、誠実な情報開示と双方向の交渉に基づいた協調的なコスト見直しを行えば、関係性を維持しながらコスト調整が可能である。

2.短時間勤務や一時的休業(furlough)の活用

需要が一時的に落ち込んでいる場合、レイオフではなく短時間勤務制度や無給休暇制度の導入により、人材を維持したまま一時的な支出削減を行うことができる。特に一部の州では、こうした制度に対する助成金や失業保険の支援も受けられる。

3.物流・販売戦略の再設計

関税の影響を受けにくい販路や商品の見直し、あるいはeコマースや店舗受け取り(BOPIS)などのオムニチャネル強化により、物流センター閉鎖の影響を最小限に抑える戦略も考えられる。業務の単純な縮小ではなく、「再設計」こそが必要だ。

人を守る経営が、企業価値を守る

経営が厳しくなったときこそ、その企業の「本質」が問われる。単純にコストを削減するのではなく、従業員・サプライヤー・顧客との信頼関係を守りながら、どのように柔軟に戦略を組み替えていくかが重要である。

レイオフは確かに短期的には有効な手段かもしれない。しかし、それは最後の選択肢であるべきだ。いま問われているのは、「どう削るか」ではなく、「どう守るか」なのではないだろうか?

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