アメリカ人事 | イーロン・マスクの“反HR戦略”が迎えた必然の結末

アメリカ人事 | イーロン・マスクの“反HR戦略”が迎えた必然の結末

「岐路に立つ」という件名の不吉なメールを見つめる、パニックに陥った従業員たち
返信しなければ解雇されることを告げるこのメールは、COVID-19の影響でリモートワークを享受していた従業員に対し、突然かつ強制的にオフィスへの復帰を命じるものだった。

これは2025年2月の出来事ではない。数年前、具体的には2022年11月に起こった出来事だ。

そのとき、イーロン・マスクがツイッターを買収した。彼がこのソーシャルメディアプラットフォームに「X」という名前を付ける前のことだ。しかし、彼がCEOに就任して間もなく、彼は会社の人員構成を完全に見直すことに着手した。

最初の一手は「警告の砲撃」だった。
マスクはまずツイッターの従業員の約半数を解雇し、数日後には、彼の個人的な承認を必要とする例外を除き、同社のリモートワーク制度を廃止するというメールを送信した。

その後送られた「岐路に立つ」と題されたメールによれば、ツイッターに残りたい従業員は、「極端にハードコアな」メンタリティ、すなわち「高強度の長時間労働」に同意しなければならなかった。

こうした急激な変化は混乱を招いたが、同時にマスクの経営スタイルを理解するためのひな形ともなった。彼の「無駄を省いた効率重視」の経営哲学が、彼自身が「買いすぎた」と認めるツイッターにとっての指針となったのだ。

このツイッターでの改革劇は、我々HR業界の人間が、マスクがトランプ政権2期目の顧問として、事実上の「政府効率化局(DOGE)」の長官となったことに驚くべきでない理由をも示している。


この展開、以前にも見たことがある
マスクの熱狂的なファンの間ではカリスマ的存在かもしれないが、HR業界における彼の評判は、彼のSNS投稿や突飛な車のデザインではなく、彼の企業が抱えてきた数々の訴訟によって特徴づけられている。

例えば、テスラは過去10年間、カリフォルニア州フリーモントの製造施設における危険な労働環境や人種差別に関する数々の訴訟に直面してきた。ちょうど1年前には、テスラが従業員に対する差別を理由に訴えられ、2度の陪審員裁判で敗訴した末に和解に至った。

そして、彼の他の企業も決して良い状況とは言えない。
NeuralinkやSpaceXも、安全性に関する問題や不当労働行為の訴えに直面している。「X(旧ツイッター)」は、マスクの大規模な人員削減により、法的な後始末に長年苦しめられている。2024年2月26日には、4人の元従業員が、不当に退職手当を支払われなかったとする主張を仲裁で認められたとブルームバーグが報じた。

これらの法的問題を別としても、マスクのHRアプローチは「異端」としか言いようがない。2020年の時点で、テスラは「反ハンドブック(Anti-Handbook)」と呼ばれる社員向けハンドブックを維持していた。その中で、同社は従来のルールや規則を否定し、次のように記していた。
「ポリシーやルールは最低ラインを示すものであり、それを下回れば解雇されるということだ。しかし、それは我々のやり方ではない。」

この哲学を政府運営にコピー&ペーストするのは当然の成り行きだった。
マスクは「X」の強引な改革手法を、アメリカ政府という最大かつ最も強力な雇用主の運営にも適用しようとしている。その証拠が、**米国人事管理局(OPM)が送った辞職延期メールの件名「Fork in the Road(岐路に立つ)」**である。

交渉トレーニング企業「Shapiro Negotiations Institute」のパートナー、アンドレス・ラレス氏によれば、マスクのアプローチは「何よりもアカウンタビリティ(説明責任)を重視する」ものだという。このアプローチは、「飴(インセンティブ)」よりも「鞭(罰則)」を強調し、段階的な変更ではなく急激な変革を好む。

「これまでの彼の手法を見れば、一貫したプレイブック(戦略)があることが分かる」とラレス氏は述べる。「彼の組織文化は極端なアカウンタビリティを求めるものだ。」


マスクの最大の課題は、彼の哲学を米国政府という巨大な組織に適用することだ。
すでにいくつかの失敗が明らかになっている。例えば、原子力安全局の職員や国立科学財団の職員など、一度解雇された従業員の中には、後に再雇用された者もいる。また、2025年2月27日、連邦判事はOPMによる試用期間中の従業員の解雇が「権限を超えている」との判断を下した。

「連邦政府を変えるのは、タイタニック号を動かすようなものだ」とラレス氏は語る。「ビジネスのように機敏ではなく、同じKPI(主要業績評価指標)やアカウンタビリティの水準に慣れていない。」


政府の混乱はHRにとってチャンスかもしれない
ここで誤解しないでほしい。マスク、DOGE、トランプ政権が進める変革は、単なる経営手法の議論にとどまるものではない。HR Diveが報じるように、レイオフや辞職延期通知を巡る法的問題には憲法上の論点も絡んでいる。裁判所もこれらの解雇の適法性を精査している。

だが、読者には「DOGEの優先事項を理解し、そこから学ぶことができる」ことを知ってもらいたい。

例えば、HRがアカウンタビリティを重視する文化を導入するとしても、マスクのように無鉄砲に進める必要はないとラレス氏は指摘する。DOGEが求める「週ごとに5つの成果を報告せよ」という制度は、多くの組織にとって実行が難しく、従業員と経営陣の信頼関係を損なう可能性があるという。

「人々には適応する時間が必要だ」とラレス氏は言う。「重要なのは、何を決定するかだけでなく、その実施方法とコミュニケーションの仕方だ。これはリーダーシップの基本だが、それが忘れ去られている。」


柔軟性の面で企業はマスクと差別化できる
経営コンサルティング会社Dixon Whyte LLCのアイシャ・ホワイト氏は、DOGEやX、テスラでのマスクのリモートワーク禁止政策に対し、企業は柔軟な働き方を提供することで優位に立てると指摘する。

「企業は政府内の混乱と対比しながら、より良い職場環境をアピールするべきだ」とホワイト氏は語る。「それは、従業員にとっても企業にとっても、大きなメリットになる。」

▼出所

https://www.hrdive.com/news/musk-doge-anti-HR-playbook/741752/?utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=Newsletter%20Weekly%20Roundup:%20HR%20Dive:%20Talent%20Daily%2003-08-2025&utm_term=HR%20Dive:%20Talent%20Weekender

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 写真の出所
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