アメリカ人事 | オフィス回帰命令が職場の礼儀に与える影響

 

アメリカ人事 | オフィス回帰命令が職場の礼儀に与える影響

近年、企業が従業員にオフィス勤務を義務付ける “Return-to-Office (RTO)” の動きが加速している。しかし、米国人事管理協会(SHRM)の最新データによると、この方針が職場の礼儀(シビリティ)に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。

SHRMが2025年第1四半期に発表した「Civility Index(礼儀指数)」によれば、RTOを義務付けた企業の従業員は、義務付けていない企業の従業員に比べて、職場での非礼な行為を63%多く経験していることが判明した。さらに、過去1年間にRTO計画を発表した企業の従業員は、1日平均0.9回の非礼な行為を経験しており、これはRTOを発表していない企業の従業員(0.36回)と比べて2倍以上の頻度である。

この関連性について、SHRMの主任研究者であるデリック・シーツ氏は「オフィス勤務に戻る従業員は、日常生活の大きな変化に直面しており、そのストレスが非礼な行為を増加させている可能性が高い」と指摘する。さらに、「在宅勤務では直接の対面機会が限られていたが、オフィス勤務では対面のコミュニケーションが増え、礼儀に欠ける場面が生じやすくなる」と分析している。

シーツ氏はまた、今後の調査によって「これらの行動が職場復帰の移行期に特有の一時的なものなのか、それとも対面での業務環境における本質的な要素なのかを見極めることが重要だ」との見解を示した。

職場の礼儀低下がもたらす課題

SHRMのデータによると、米国の労働者のうち20%が過去1年間に雇用主からRTO命令を受けたと回答しており、多くの従業員がオフィス勤務への移行を経験している。この変化は単なる勤務形態の調整ではなく、従業員同士の関係性にも深い影響を与えている。

「この結果は、職場のコミュニケーションや人間関係における根本的な課題を浮き彫りにしている」とシーツ氏は指摘する。企業はRTO移行期において、従業員をより適切にサポートする必要がある。非礼な行為を放置すれば、職場の信頼関係やチームワーク、士気の低下を招く恐れがある。

「企業は、この期間にストレスが発生するのは自然なことであり、それが業務上の調整だけでなく、対人関係の変化にも影響を及ぼすことを理解すべきだ」とシーツ氏は述べる。企業がオープンなコミュニケーションを促し、全てのレベルで礼儀正しい行動を示すことで、従業員の職場復帰を円滑に進めることができる。

礼儀指数と職場の現状

SHRMの「Civility Index」は、四半期ごとに職場や社会全体における礼儀のレベルを測定する調査である。最新の調査では、職場における非礼な行為は依然として問題となっているが、2024年第4四半期の米国大統領選挙直後に記録された過去最高水準(49.7)からはやや低下し、48.8となった。

また、職場内の礼儀指数は社会全体よりも良好で、2025年第1四半期では38.8を記録した。これは2024年第4四半期の40.9より改善している。しかし、SHRMの研究者は「企業は引き続き非礼な行為がエスカレートしないよう対策を講じる必要がある」と警鐘を鳴らしている。

政治的対立が礼儀に与える影響

SHRMの調査によると、政治的な意見の違いが職場での非礼な行為を引き起こす主要因の一つとなっている。特に2025年1月のドナルド・トランプ大統領就任をきっかけに、約4割(38%)の回答者が「職場の非礼な行為の要因」として政治的な違いを挙げた。

キャリア専門家のキース・スペンサー氏は「政治の話題が職場で加熱すると、人間関係やチームワークに悪影響を及ぼす」と指摘する。実際、Resume Nowの調査では、51%の労働者が「政治的意見の違う同僚を意図的に避けている」と回答しており、これが職場の信頼関係や協力体制を損なう要因となっている。

SHRMの調査では、従業員の71%が「上司や管理職が職場の非礼な行為をもっと防ぐべきだった」と考えていることが分かった。

スペンサー氏は「リーダーは職場の礼儀の方向性を決める重要な役割を担っている」とし、「政治的な会話が完全になくなることはないが、企業は従業員が尊重し合いながら意見を交わすためのルールを設けるべきだ」と提言する。そのためには、紛争解決トレーニングの提供、尊重ある対話のガイドライン策定、政治的偏見が業務判断に影響を与えない環境の整備が重要となる。

非礼な行為の経済的損失

職場の非礼な行為は、企業にとって大きなコストを伴う問題である。SHRMの調査によると、非礼な行為による生産性の低下や欠勤の増加により、企業は1日あたり21億3,181万ドルの損失を被っている。

この事実を踏まえ、企業はRTOの推進と並行して、職場の礼儀を向上させるための施策を講じることが求められる。従業員がストレスなくオフィス勤務に移行できるよう支援することが、長期的な生産性向上と企業文化の健全化につながるであろう。

▼出所

https://www.shrm.org/topics-tools/news/employee-relations/incivility-and-return-to-office-mandates?utm_placement=article1&utm_source=marketo&utm_medium=email&utm_campaign=editorial~hrd_flag~NL_2025-03-19_HR-Daily&linktext=How-Return-to-Office-Mandates-Are-Affecting-Workplace-Civility&mktoid=50304620&mkt_tok=ODIzLVRXUy05ODQAAAGZTgXOripoNZQubGIpeaJJ_pe-fLrQ1vvZwhdTtH7_X7iVB40QBvK_JH5cxGVJDL7HO-nmtyzd6ecLdXWeCaf4XI8RDyJdZO0zEp0onIDrTmEKwbwJ

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