アメリカ人事 | 日本企業が米国でDEIと差別に関して注意すべき点(駐在員待遇を含む)

 

日本企業が米国でDEIと差別に関して注意すべき点(駐在員待遇を含む)

1. DEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)施策における注意点

2025年3月19日、EEOC(米国雇用機会均等委員会)と司法省は、職場におけるDEIに関連した差別についての2つのガイダンスを公表しました。これにより、以下のようなDEIの名の下に行われる行為が、差別と見なされるリスクがあることが明確になっています:

  • 特定の人種・性別を基準にした採用、昇進、報酬、研修の機会の制限
  • フェローシップ、メンター制度、スポンサー制度への参加からの除外
  • 社内グループやプログラムへの保護属性(人種・性別等)を理由とした排他的運営
  • DEIの目的であっても、「人数のバランス調整」や「割当て」の実施

▼ フェローシップ、メンタープログラム、スポンサーシップの具体例

用語 内容 具体例
フェローシップ(Fellowship) 特定のスキルや分野における短期集中型の支援プログラム(研修、研究支援など) 管理職候補者を対象とした「女性リーダーフェローシッププログラム」を設け、男性社員を除外している場合などは要注意。
メンタープログラム(Mentorship) 経験豊富な社員が若手社員などを継続的に指導する制度 人種や性別を基準に「女性社員限定メンター制度」などを設け、他の社員に同様の機会がないと差別とされる可能性があります。
スポンサーシップ(Sponsorship) 幹部社員が特定の社員のキャリア推進を積極的に支援する制度(推薦やプロジェクト任命など) 管理職が「マイノリティ出身社員に限定」してスポンサーを行い、他の優秀な社員を排除すると不公平とされる可能性があります。

EEOCはこれらの制度が職場での地位や昇進機会に影響する場合、排他的な運用が「差別」と認定される可能性があると指摘しています。


2. 駐在員の優遇に関連する「国籍差別(national origin discrimination)」への懸念

【参考事例】

グアム:L社のケース(2024年)
EEOCは、L社が2015年以降、日本人駐在員に対して、同等または下位の役職にあるアメリカ国籍の従業員よりも好待遇を与えていたとして、国家起源による差別で提訴。結果、同社は140万ドル超の和解金を支払いました。

【問題とされた待遇差】

  • 賃金
  • 福利厚生(例:住宅手当、社用車、海外赴任手当など)
  • 勤務条件(勤務時間、業務負担、昇進機会など)

3. 駐在員待遇で日本企業が注意すべき点

✅「国籍」や「出身国」を理由とした待遇差を避ける

  • 日本人社員であることを理由に、現地採用や非日本国籍の社員よりも一律に好待遇を与えることは、Title VIIに違反する可能性があります。
  • 駐在制度自体は問題ありませんが、**待遇差には合理的な業務上の理由(例:一時的派遣、言語対応、立上げ責任等)**が必要です。

✅ 業務内容・責任・経験に基づく説明責任の明確化

  • 駐在員と現地社員の業務が類似している場合、待遇差の正当性について、説明できる明文化が重要です。
  • 「日本人だから」「日本本社から来ているから」という理由は、アメリカの法律では通用しません。

✅ 就業規則・契約書・社内文書の見直し

  • 海外子会社で運用している「駐在員規程」や「福利厚生規程」が、現地労働法やEEOCの方針に反していないか定期的な確認が必要です。
  • 日本語だけで作成された文書では現地スタッフが確認できず、透明性にも問題が生じます。

✅ 社内文化の整備

  • 駐在員が主要なポジションを独占し、現地社員が昇進や意思決定から排除される状態は、差別構造とみなされる可能性があります。
  • 現地社員のキャリア開発や意思決定への参加を促進する制度の導入が望まれます。

まとめ:米国で駐在員を配置する際に日本企業が注意すべきこと

項目 注意点
駐在員の待遇 国籍・出身を理由とした優遇は禁止。差異は業務上の合理的根拠が必要。
DEI施策 保護特性に基づく限定的な制度運用(例:フェローシップ、メンター制度)はリスクあり。
社内制度 リソースグループ、昇進、研修制度の運用を見直し、差別的効果を排除する。
社内文化 現地社員が不公平感を持たないような開かれた組織づくりが必要。

 

  1. 駐在員制度の見直し支援チェックリスト
  2. 社内DEI制度に関するコンプライアンスチェックリスト
    の2つを日本企業向けに作成しました。

1. 駐在員制度の見直し支援チェックリスト(EEOC準拠)

チェック項目 内容 対応状況
🔲 1. 駐在員の待遇差の合理性が文書で説明できる 現地社員との職務内容、責任、役職、在籍期間などに応じた**合理的理由(例:短期赴任、立ち上げ支援)**を明記しているか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 2. 駐在員と現地社員の役職と職責を比較検証したことがある 実質的な職務内容に差異があるかをポジションごとに比較・記録しているか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 3. 駐在員向け福利厚生(住宅、交通費、赴任手当など)が差別的でないか確認済み 国籍や出身地に基づく自動的付与になっていないかをチェックしたか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 4. 駐在員制度に関する規程が現地労働法に準拠しているか 日本本社の規定をそのまま適用せず、Title VIIやEEOCのガイドラインとの整合性を確認しているか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 5. 待遇に関する現地社員からの不満・通報への対応窓口を設けている 報復禁止方針や相談ルートを整備しているか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 6. 駐在員と現地社員の昇進機会や評価制度に公平性があるか 現地社員が昇進・責任のある仕事に就けない構造になっていないか □対応済 □対応中 □未対応

2. 社内DEI制度に関するコンプライアンスチェックリスト(EEOC準拠)

チェック項目 内容 対応状況
🔲 1. フェローシップ・研修・メンタープログラムへの参加条件が公正か 性別、人種、国籍を排他的に条件化していないか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 2. スポンサー制度(社内支援・推薦)に透明性があるか スポンサー対象が一部の属性に限定されていないか(例:「女性限定」「マイノリティ限定」など) □対応済 □対応中 □未対応
🔲 3. 社内リソースグループ(ERG)のメンバー制限が差別的でないか ERGへの参加制限が人種や性別など保護属性を理由としていない □対応済 □対応中 □未対応
🔲 4. 面接候補者の選定基準に公平性があるか DEI方針に沿った候補者選定であっても、属性バランス目的での除外や制限がないか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 5. 差別的な逆転措置(リバース・ディスクリミネーション)を避けているか 特定グループを優遇するあまり、他のグループを不当に扱っていないか □対応済 □対応中 □未対応
🔲 6. 全従業員にDEI方針と差別禁止規程を共有しているか DEI施策は差別を助長しない範囲で実施されることを周知しているか □対応済 □対応中 □未対応

🔍 補足:EEOCの新ガイダンスのポイント(再確認)

  • 「保護特性」(race, sex, national origin など)に基づく区別はたとえDEI目的でもリスクがある
  • フェローシップや研修、スポンサー制度は公平なアクセス機会の確保が重要
  • 駐在員制度は待遇差の説明責任が求められる時代に
  • EEOCは“逆差別”の申立てや訴訟に対する監視を強化している

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